ある記憶。
計画地を眺めていた。建築予定地なのにそこにはクスノキの巨木が数本。
そこから注ぐ木漏れ日の中、不思議な記憶が駆け巡った。
あの時の… 小さかった時の… あの場所… 不思議な大木… カブトムシ… 葉の擦れる音、名前は知らない花々、匂い、全然違う場所なのに、鮮やかな感覚揺曳。
人は何かを創造する時、過去の記憶や夢を引き出しながら、感覚を具現化することがある。溢れ出る感覚や感性を邪魔せず刺激する環境が、研究所の理想であるといつも思っている。
理美容化粧品を開発するクライアントは創立70周年に向け、この地に急ぎ研究所の整備を望まれていた。しかし希望される面積の建物を成立させるには、全てのクスノキを取り除かなければならず、それは絶対に避けるべきだと、先の不思議な思いと共に直感的に感じた。検討を重ねて、どうにかクスノキを一本だけ残し、それをシンボルツリーとした新しい案を提案し、設計を進める事になった。
建築のファサードには人々に刻まれたこの地の風景の記憶を残すべく、クスノキのパネルと曇りガラスをランダムに配置した。結果、研究室には時間や季節によってさまざまな種類の光が変化する空間になった。
クスノキの巨木が建物に木漏れ日を落とし、研究者が建物に入る時には、カサカサとした葉音や花々の香りを微かに感じながら、記憶や感覚を呼び覚まし、新しい感性の理美容品の開発にラボに向かうのである。僕たちはそんなシーンを想像した。
プラナスが近年手がけた研究所について、設計コンセプトやプロジェクト背景などを絵と写真と文章でご紹介しています。お気軽にご請求ください。